大判例

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福岡高等裁判所那覇支部 昭和50年(ネ)31号 判決 1977年1月21日

控訴人 有限会社南部産業

右代表者代表取締役 外間尹吉

右訴訟代理人弁護士 山分栄

同 大浦浩

同 野島潤一

被控訴人 阪和興業株式会社

右代表者代表取締役 北茂

右訴訟代理人弁護士 松尾翼

同 長浜隆

同 古谷明一

同 荒木新五

同 簑原建次

同 川満敏

被控訴補助参加人 武州商事株式会社

右代表者代表取締役 矢島武久

右訴訟代理人弁護士 渡辺綱雄

同 小村義久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和五〇年七月一八日にした強制執行停止決定を取り消す。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の控訴人に対する東京法務局公証人小野沢龍雄昭和四九年一月二四日作成昭和四九年第〇一一一号機械売買契約公正証書に基づく強制執行は許さない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人・被控訴補助参加人

主文第一、二項と同旨。

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり附加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  主張

1  被控訴人

仮に本件売買契約の目的物件の引渡しがなかったとしても、原判決理由説示のような事実関係のもとでは、控訴人が本件売買契約を解除することは信義則に反する。

2  控訴人

被控訴人の右主張は争う。

二  証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所は、次に附加訂正するほかは、原審と同一の理由で本訴請求を棄却すべきものと認めるので、原判決理由の記載をここに引用する(但し、原判決七枚目表七行目の「四一一九万円」とあるは「四一九九万円」の、同一〇枚目裏一〇行目の「原告」とあるは「被告」の、各誤記と認める)。

二1  原判決六枚目表一〇行目の冒頭から同一一行目の「成立に争いのない」までを、「原審証人岡上雄行、同沼田実、原審及び当審証人上野和夫(原審は第一、二回)、同久野芳隆、同島村運行、同圓野憲武、同高宮康弘の各証言、成立に争いのない甲第五号証、」と改める。

2  原判決八枚目表三行目から同一二行目までを、全部次のとおり改める。

「(七) その直後上野は控訴人本社に戻り、控訴人社長外間尹吉から、控訴人及び控訴人代表者名義のゴム印及び代表者印、横書きの外間尹吉名義のゴム印及び丸印(読み易いもの)を押捺ずみの前記売買契約書(甲第一一号証の一、乙第二号証)、委任状(甲第一一号証の三、乙第四号証)の交付を受け、かくして翌日沖繩を去った。

(八) その後、被控訴人は控訴人との間で、同年九月二五日付で右各書類を整えてロスユニミックス六〇型パッチャープラント一台の売買契約手続を了えたのであるが、右売買代金四一九九万円については、控訴人からその支払いのために、同月二二日あらかじめ約束手形二四通の振出交付を受けていた。

(九) 一方、被控訴補助参加人は、上野から前記の如く検収を終った旨の通知を受けたことにより、日発実業及び被控訴人との間で、同年九月二五日付でロスユニミックス六〇型パッチャープラント一台につき、それぞれ買入れと売渡し契約手続をとり、日発実業には同月二八日右買入れ代金三三五四万七九五〇円を支払い、被控訴人からは同年一〇月三一日右売渡し代金三六一〇万円に相当する額面の約束手形の振出交付を受けた。」

3  原判決八枚目裏九行目の括弧内の冒頭に、「甲第一三号証、第一四号証の一、二を以てしても、結局その成立の真正を左右するに足りない」を加え、同末行の「証人沼田」から同九枚目表二行目の「あるいは、」までを削り、同五行目の「変更され」の次に、「控訴人もこれに暗黙の諒解を与え」を、同六行目の「できない。」の次に、「また価格上一〇〇型でなければならないとする合理的根拠は、本件全証拠を以てしてもこれを見出すことはできない。」をそれぞれ加える。

4  原判決九枚目表六行目の次に改行して、「右によれば、控訴人と被控訴人との間の本件売買契約は、ロスユニミックス一〇〇型をその目的物件としたものではないから、控訴人が一〇〇型の引渡しがないことを理由に右契約の解除を主張する限り、その引渡しのないことは当然であって、右主張は前提を缺いて失当であるが、本件公正証書には、当該売買契約の目的物件としてただ単に「ロスユニミックス」と記載されているだけであるから、控訴人主張のなかには、被控訴人が控訴人に対するその債権の強制実現を本件公正証書に依拠する以上、目的物件がたとい一〇〇型ではなくて六〇型であっても、その引渡しのないことを理由にこれが売買契約を解除するとの趣旨の主張を包含するものと解せられるので、以下すすんでその引渡しの有無について検討する。」を加える。

5  原判決九枚目表末行の「同第一〇号証」の次に、「当審における控訴人代表者尋問の結果」を、同裏二行目の「受領し」の次に、「屋嘉工場に設置したが、同年七月始め頃までは試運転やコンクリートが出なかったことのため或る程度しか実際に使用せず、同年一〇月には原審における検証現場の安謝新港にこれを移動させ」を、同裏八行目の「もっとも」の次に、「甲第七号証は、控訴人と株式会社山善との間の通常の取引過程における物品受領書とすれば、その形式内容とも異例とみえるふしがあり、かつまたその提出時期が原審において検証が実施された昭和四九年一一月一日の後である同五〇年一月九日であって、右検証においては、本件機械のモデル記号やシーリアスナンバーが写真撮影されていることが本件記録及び検証調書に徴して明らかであるから、それが書面上の作成日付である昭和四八年五月二〇日頃に作成されたのではなく、右検証後に作成されたのではないかとの疑いが残らないではないけれども、さればとてこれを右検証後の創作であるとするには、原審証人藤井光男の証言に照らしてなお躇躊を覚えざるを得ない。また前認定の事実及び右検証の結果認められるステッカー貼付箇所に照らせば、当審において証人上野和夫が、前記検収の際検収対象たるロスユニミックスがそれ程汚れていず、ステッカーもすぐ貼れたと供述していることは左程不自然ではなく、更にステッカーの貼付箇所については余り人目につかぬよう、そして剥がされるおそれのないよう配慮し、写真機を持参しなかったので写真は撮らなかったと供述していることも、しかく不審のかどはないうえに、同証人の証言と右検証の結果とをあわせ考えると、検収時に貼付されたステッカーと検証時に貼付されていたステッカーとの同一性を優に認めるに足りるから、検収時と検証時とのロスユニミックスないしステッカーが異別のものであると疑わせる余地はなく、当審におけるステッカーの検証の結果及びその他の証拠を以てしても、右認定判断を動かすに足りない。更に」をそれぞれ加える。

6  原判決一〇枚目表三行目から同一二行目までを、全部次のとおり改める。「しかして、原審証人沼田実、並びに原審及び当審証人木戸三夫の各証言(後記措信しない部分を除く)によれば、日発実業は専らその資金繰りの必要上、控訴人の屋嘉工場にあったパッチャープラントが昭和四八年九月当時日発実業の所有物件ではないのを知りながら、これを本件「つけ売買」の目的物件であらかじめ日発実業から控訴人に直納し保管させているものであるかのように装って被控訴補助参加人及び被控訴人をその旨誤信させ、かくして日発実業から控訴人までいわゆる空売りをしたものであることが認められ、右木戸三夫の証言中、上野が検収当時空売りであることを察知し納得していたとの部分は、原審及び当審における証人上野和夫の証言並びに弁論の全趣旨に照らして措信せず、当審における右証人上野の証言によれば、前出甲第三号証(目的物件が一〇〇型であり、納期が昭和四八年一二月末日と記載されている日発実業の控訴人宛注文請書)を見たことがあること、それは控訴人振出の前記約束手形を被控訴人が受領した後であることが認められるが、未だそれが右検収前であったとの心証を惹くに足りない。」

7  原判決一一枚目表一行目の「明らかである。」の次に、「原審及び当審における証人木戸三夫の証言並びに控訴人代表者尋問の結果中には、控訴人は日発実業の右空売り操作に関与せず知りもしなかった旨の部分があるが、右認定の事実に照らし措信できない。」を加える。

8  原判決一一枚目表一行目の次に改行して、「しかして、《証拠省略》を総合すれば、(1)控訴人代表者外間尹吉は、昭和四七年一〇月頃日発実業の代表者福田葵と知りあい、両社で技術提携を結ぶかたわら、以後親しい友人関係を続けるようになったのであるが、同年一二月頃控訴人は株式会社山善を中間売買人として前記ロスユニミックス六〇型一台を日発実業に購入方注文し、これを翌四八年五月二〇日頃受領したことがあり、通常日発実業とのこの種機械の取引については、機械は日発実業から控訴人に直納され、注文してから届くまでに数箇月を要し、かつ日発実業の資金繰りの都合上「つけ売買」が行われることを知っていたこと、(2)控訴人は、同年七月三〇日に道路用コンクリート製品連続自動成型施工重機(通称ゴマコGT六〇〇〇)一台を日発実業から被控訴補助参加人を中間売買人として購入することを約したが、翌八月一三日に被控訴補助参加人の機械建設部機械課長圓野憲武が右売買に関し控訴人本社へ物件の検収に赴いた際、外間社長は未だ右機械が入っていないのに屋嘉工場にあると述べ、しかも口実を設けて同工場への案内を断り、検収ずみの旨を記載した受領書を作成交付し、被控訴補助参加人が所有権を留保する旨を表示するラベルも自分の方で貼付するからといって受けとっていること、(3)本件「つけ売買」の話しがまとまったとほぼ同じ頃、控訴人は日発実業から三井リース事業株式会社を中間売買人としてロスユニミックス一〇〇型一台を購入することとしたが、同年九月一四日右会社の営業部長代理保科康雄が右ユニミックスの検収のため控訴人本社へ赴いた際には、外間社長は日発実業の福田社長と同席しており、右福田と共に、右機械は未だ納入されていないのに屋嘉工場にある旨指示説明したこと、(4)同年一〇月五日には沖繩土木開発リース株式会社が設立されたが、その株主構成及び役員構成上実質は日発実業と控訴人との共同設立にかかるもので、外間尹吉は右福田と共に取締役となり事実上の経営者におさまったうえ、同月下旬頃東京リース株式会社を中間リース会社としてコンクリート舗装床板用フィニッシャー(通称ゴマコC四五〇)二台を賃借し、また同年一一月下旬頃三井リース事業株式会社を中間売買人としてゴマコGT六〇〇〇二台を購入し、いずれも日発実業から直接引渡しをうける旨の契約を締結したこと(5)日発実業と控訴人とは、互いに資金繰りのため融通手形を振合い、控訴人の振出した融通手形は日発実業倒産当時その額二億五〇〇〇万円に達しており(ちなみに日発実業倒産時の控訴人の債権総額は六億円を超えるとされる)、本件「つけ売買」においても、日発実業は控訴人の連帯保証人となり控訴人が被控訴人に対して代金支払いのために振出した前記約束手形については、すべて日発実業が共同振出人となって手形法上合同責任を負っていること、及び被控訴人にしてみれば、控訴人との取引が始めてのことであったので、日発実業の右共同振出人たることを右売買に応ずる条件の一つにしたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する《証拠省略》は措信せず、他にこれを覆すべき証拠はないところ、右事実によれば、本件「つけ売買」当時控訴人は日発実業と濃厚な利害共通関係にあり、日発実業の資金繰りを助けるためには、右の如く相当の危険を顧みず策略を弄することも、控訴人にとっては必要やむを得ないところというべく、逆に前記共同振出人の条件にみられるように、日発実業の助力なしには所詮本件機械の購入は困難な立場にあったことがうかがえるのであって、日発実業による本件「つけ売買」における空売り操作へ控訴人が加担した背景には、このような事情が介在したことを無視することはできない。ちなみに、日発実業は、控訴人に無断で控訴人の会社印をつくったり、これを押捺した控訴人名義の本件機械の受領書(丙第三号証)を被控訴人に対し作成交付したりしていることが《証拠省略》からうかがえるが、これらにつき控訴人から日発実業に対し告訴等苦情を訴えた形跡は本件全証拠を以てしても皆無であることと前段認定の各事実とに照らせば、右に無断とは、右印章なり書面なりの作成過程そのものについていえることで、控訴人は日発実業の資金繰り上それが必要である限りは、事前にせよ事後にせよこれらを黙許していたものと窺知するに足りる。」を加える。

三  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条、強制執行停止決定の取り消し及びその仮執行宣言につき同法五四八条一項、二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高野耕一 裁判官 大城光代 前原正治)

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